ヨセフは兄たちによってエジプトに奴隷として売られます。まさかの展開です。17歳のヨセフと北朝鮮に拉致された若者たちが重なります。突然の失踪に狼狽したのは、残された家族(父母)です。ヨセフの身に起きた事件は、遠い昔の話ではないのです。
兄弟たちはヨセフの着物を拾い上げ、雄山羊を殺してその血に着物を浸した。彼らはそれから、裾の長い晴着を父のもとに送り届け、「これを見つけましたが、あなたの息子の着物だかどうか、お調べになってください」と言わせた。父は、それを調べて言った。「あの子の着物だ。野獣に食われたのだ。ああ、ヨセフはかみ裂かれてしまったのだ。」(創世記37章31~33節)
ヨセフが隊商に連れ去られると、兄たちは「これからどうしよう。父に何と言おうか」と顔を見合わせます。そして、ヨセフは野獣にかみ殺されたと偽ろう、と決めます。その知らせを父に告げる役は誰がするか話し合います。誰もしたくなかった。そこで、金銭を払って人に頼むことにします。上記の下線箇所が、それを示しています。使者には、死の証拠品であるあの晴着を持たせて、「これを野原で偶然見つけましたが、あなたの息子の着物かどうか、お調べになってください」と言わせたのです。10人の兄たちは口約束をします。自分たちがヨセフを隊商に売ったとは決して言わない、野獣に殺されたことにしようと。そうして父がヨセフの死を知ってから数日経て、その死を悲しむふりをして家に入ろう、と話し合います。そうして、いつまで経っても帰らない息子を案じる父のもとに、見知らぬ使いが訪ねてきます。そして、前述のように父に話します。そうした策略を何も知らない父ヤコブは、ヨセフの死の知らせと、血の付いた晴着を見せられ、全身の筋肉が硬直し、卒倒しそうになります。そして、腹の底から絞り出すような声で、息子の死を嘆きます。使いの者はそれを見るや、後ずさりして一目散に逃げ去ります。兄たちは使いの者から、父のそうした様子を聞き、互いに顔を見合わせます。ここまでになるとは想像できなかった。そこで、灰をかぶった姿で、父の前に出ます。自分たちはヨセフを殺してはいないし、彼は死んではいない。しかし、そのことを父に打ち明けることは出来ませんでした。父は衣を引き裂き、幾日も幾日もヨセフのために嘆き悲しみました。誰が慰めようとしても、それを拒みました。「ああ、わたしもあの子のところへ、嘆きながら陰府へくだって行こう」と言って、ヨセフのために泣いた(25節)のです。