コヘレトは言う。空の空 空の空、一切は空である。(コヘレトの言葉1章2節・聖書協会共同訳)

新共同訳聖書になって大きく変わったのが、冒頭の書名です。それまで「伝道の書」「伝道者の書」だったからです。コヘレトは伝道者・集会を司る人です。それを「コヘレトさん」という固有名詞に受け取ったのです。12章からなる書です。エルサレムの王、ダビデの子、コヘレトの言葉(1章1節)と自己紹介しています。そして、冒頭の言葉で書き始めます。
私は大学1年の時、この書に惹かれて何度も読み返しました。冒頭の言葉から仏教的・東洋的な印象を抱き、聖書にはこのような言葉があるのだ、と驚きにも似た思いでした。しかし、これは正しい受け取り方ではなかったのです。般若心経に「色即是空」とあり、そこに空(くう)の字があり、仏教と関係があると思い込んでいたのです。そうではありません。コヘレトは、仏教の経典が書かれるよりずっと以前の人物だからです。新共同訳では「なんという空しさ」と訳されていますが、私が読んだ口語訳は、冒頭の聖句とほぼ同じでした。それにしても、冒頭から「すべては空しい」と、繰り返すのは如何なものか。最後の12章でも「一切は空である」(8節)と締め括っているのです。

今の政権が打ち出すコロナ対策は、国民にとって疑問を抱かせます。アベノマスクはその典型ですが、それを提言した人は最高学府を卒業し、エリートコースを歩んで来た人。しかし、何かが欠けていると思う。もし知恵・叡智によって物事を判断していたら、全く違っていたはず。でも私自身、知恵が欠けているから、他人事ではありません。危機の今、知恵について学ぶ必要を覚えます。そこで選んだのが、コヘレトの知恵です。ご一緒に、この書を読み解きたいのです。

さて、冒頭の聖句の底にあるのは、神を離れて生きる人生は空の空、完全に空虚だ、と言うことです。創造主なる神のみが、生きる意味を教えてくれる絶対の基準だからです。多くを述べて来て、最後にコヘレトは記します。すべてに耳を傾けて得た結論。「神を畏れ、その戒めを守れ。」これこそ、人間のすべて(12章13節)。

コヘレトは冒頭から、否定の否定は最大の肯定、という手法を取っているのです。それに気づけば、彼が伝道者と呼ばれたことに納得できました。