第10連に進みます。
一度ならず心ときめいて、「主よ、あなたは…」と
讃嘆し賛美せずにはいられません
神が私の人生に編まれた刺繍のすべてを見たから
若い時は力に注目したが、今は完全な愛に目を留め
主よ、あなたの御計画は完全でしたと、私は叫ぶ
そして、神に人間として造られたことに感謝する!
創造主よ、私を造り直し、完成してください、
わたしはあなたの働きに信頼し、全く委ねます
作者は老年期の尊さを、自分の人生に神が編まれた刺繍(神の描くすべての筋書き)が、はっきり見えて来る点に見ています。若い時の失敗は、その時は取り返しがつかないことに思えたとしても、後では、そうではなかったと気づかされます。すべてのことを神は益に変えてくださるからです。そこに、神の愛があります。もう駄目だと思ったけれど、そこから救い出されたことが幾度あったか。若い時は力(才能や能力)の大きさや強さに憧れを覚えましたが、年老いた今は完全な愛に目を留めます。完全な愛とは何か。イエスキリストが示された愛、十字架の愛がそれです。
失敗ばかりの人生に思えたとしても、それでも生きて来た日々には意味があったことを、主イエスは語りかけてくださいます。この方(イエス・キリスト)においては「然り」だけが実現したのです(2コリント1章19節)と、あるからです。主イエスはすべてを「然り」と肯定されます。愛とは否定ではなく肯定するものです。罪人であっても、不完全であっても、障害を与えられていようとも、その人のすべてを然りと肯定してくださるのです。だから、それでも人生にイエスと言えるのです。その上で、自分の造り主に、私を造り直してください、そして、主と同じ姿に変えられる完成に至らせてください、と祈るのです。神が私に触れてくださる時、一度ならずときめいて、主を賛美せずにはいられなくなるのです。それが詩の冒頭で述べられています。そして、神に似せて造られた人間であることに感謝しています。
『老いゆけよ、我と共に』の原題は『ラビ・ベン・エズラ』です。ベン・エズラは12世紀の人で、優れた聖書注解書を書いたラビ(聖書学者)でした。詩人のブラウニングは彼に傾倒し、ベンが独白する形で32連からなる長編詩を書き、その精神を述べています。